とこしえの夜

犬口マズルと申します ずっと夜が続きます

笹井賞投稿作「はばないすでい!」

まんぼうが街を泳いで眠りではなく死に近づいてゆくプール

 

失った約束たちが身を投げる誰も悪くはないのだという

 

ひとり、わたし、独り。深夜誰かの信号を待つ

 

一晩中電話を繋げ透過した身体を奪い返すまじない

 

はばないすでいを綺麗な缶に詰め郵送します遠国の友

 

全身に油をかぶるもうどこが軋んでいるか分からないので

 

お湯が沸く時の匂いはやさしくて跪くから許してほしい

 

早く百年経ってくれもぎたての罪悪感も砂になるから

 

被害妄想が得意で全員が敵に見えたら眠る時間だ

 

許してと思う時ほど薄情で腕も切り落とせない愚かさ

 

水際の泡が弾けるさようなら選ばなかった方の人生

 

どん、つー、どどん鈍痛こめかみのドラムを鳴らすMs.片頭痛

 

傷つけた人たちのこと思い出す傷つけたことだけが残った

 

すべてには終わりがあると知っていて気付かなかったふりをしている

 

全身にニベアを塗って冬過ぎるまでパンケーキごっこに興ず

 

柔肌の下で蠢く地下都市を確かめている夜の唇

 

まろやかな沈黙の膜蝶々のように破って飛び去ってゆく

 

してよキスしてよ崩壊この橋は破滅に落ちるための装置で

 

灼熱に分け入った先草原で触れる冷たさここが本能

 

金星をあなたの舌で与えられ翼をなくすことの悦楽

 

不揃いを並べた夜はラディカルで個体と個体境目はなく

 

屋上に至る病を渇望し電波を拾う深夜ラジオの

 

顔ほどの煎餅割って満月を掌握できる僕の指先

 

まどろみの淵で轟音シロナガスクジラが跳ねて降りしきる雨

 

まなうらで魚が泳ぐ夢を見る時人はすべからく海

 

白百合を耳の代わりに敷き詰めて出棺を待つまでのおしゃべり

 

随分と変わったんだね映画館帰りで繋ぐ原作の手

 

正しさのひとつの例として挙げる閉店間際のパン詰め合わせ

 

暗闇に花火が上がる幻聴で並行世界の夏を探した

 

イヤホンを看取った朝は念仏の代わりに街の喧騒を聴く

 

エンドレスハイウェイ犬が行く道に名付けて僕らだけの楽園

 

蝉を見た犬を動画におさめつつゆっくり下がるここは戦場

 

大切なことはちっともわからない犬のまつげを見て陽が落ちる

 

熟れ桃の果汁こぼれてゆくように留めることのできぬ老犬

 

雪原の鼓動に鼻をうずめては仔犬すややかすややかと寝る

 

強運の持ち主でしょうこんなにも可愛い犬が家に暮らして

 

ちはやぶるロックスターの新曲でまだ生きうもう少し生きれう

 

相槌に似たふふという笑い声羽毛布団がくれる安心

 

シャツに皺つくこともなく寂しさは配信の後落ちる彗星

 

耳奥でベースがうねるベランダで月光を見てすこし鳴り止む

 

土曜日で始まる曲を土曜日に流して時間と同化してゆく

 

星を飲むことを許されたんでしょうどんな場所でも光って見える

 

背骨からあなたを抜けば器からこぼれてしまう僕の魂

 

年を取ることの尊さ変わらないあなたは写真でしか会えない

 

ライオンのたてがみほどの愛でした(なくてはならないものにたとえて)

 

:(ダカーポ)を.(ピリオド)に書き換えてゆく二度とあなたを振り返らない

 

てきぃらという劇薬に浮かされて/羽化されて共に始める夜間遊泳

 

正月にしか食べられないものが好きなつかしさみしなつかさみしい

 

善悪の振り子が揺れるどちらでもない道を行くことはどちらだ

 

耳元でさかなが笑うきんきらの鱗が舞って明日はきれい




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久しぶりの更新です(そんなに久しぶりでもないですね)笹井賞に投稿した連作を掲載しました。その時は良いと思ったけど、今読むと稚拙な作品だったなと悲しい気持ちです。なんにもならなくて悲しいなーということを受け止めて、どうしたら良い短歌が作れるか考えていかなくてはなりませんね。ともあれ、その時々でベストを尽くしていくことが大切な気がします。

これからもがんばります。姉が元気を出すんだよと言ってくれたので、元気を出してみようかなと思います。


足跡の分だけ報われることはなくとも歩く歩きたいから /短歌



それではさようなら。

お元気で。