とこしえの夜

犬口マズルと申します ずっと夜が続きます

短歌研究新人賞応募作品「ある街」

今日は二度目の更新です。住んでいる場所の関係などで短歌研究が手に入るのは少し先になりそうです。結果は後で確認するとして、応募した連作を公開します。楽しく読んでいただけたら幸いです。

 

 

「ある街」

昏倒の最中に届く招待状あなたは現実ここにいてはいけない

飛び出して行かなくっちゃと会社飛び出して征かなくっちゃと白うさぎ

尊厳と生命掲げ二番線風が切符を拝見します

沈み込む座席は眠りの表層終点まではそっとおやすみ

起き抜けに椎骨は増え自尊心ぐんぐん伸びるアリスみたいに

これからはシン・ガリバーと呼んでくれ月に片肘ついて手を振る

ようこそと花は開いて深々とお辞儀祭りの街道を行く

飲み干して流星群の名産地ダストトレイルハーブティー

自販機をランダムに押す愚かさを讃えてチェリーパイの贈呈

抱擁をミュウヒハウゼン男爵と虚構を詠う者に幸あれ

飛ぶことはいとも容易い地に足をつけ生きていくことよりずっと

牛乳で出来た銀河に落下するセスナここでは誰も死なない

七色の犬と一緒に辞書を引くきみ永遠の代表だって

唐突に襲来をする覚醒の逆鱗を刺す祈りを以て

青い鳥通りすがりの預言者があなたは三度知らないと言う

逃げるように夜へ飛び込み手を上げる貝殻二枚人魚タクシー

夜ヶ丘すべての責務浮遊してぱちんとはじけるゆうえんち!

背徳は十二星座と安全バー代わりの角は魚の匂い

迷い込む百面鏡に覚醒が映り込むから叩き壊した

こんにちはコーヒーカップ高速で回して出来た新言語ニューフェイスたち

足跡が胞子のように光り出す月靴げっかお土産スーベニアにぴったり

夜深く靴職人は三日月が起き出す前に獲りに行くこと

パレードは禊のようにしんしんと長針の音だけが響いて

覚醒が帳のように降りてくるその内側で息を潜めよ

夜は蝶ピンを刺しても輝きが最果てまでも届いてしまう

鳴るという行為自体の暴力を手のひらだけで留められるか

金星ルシファー、と思ったら朝が来た赤い瞳が隙間から差す

飛び出して行かなくっちゃと布団飛び出して征かなくっちゃと会社員

片隅に余韻を残す生きるため僕が作ったノアの方舟

普遍/不変的日々にも凛と現実ここじゃない場所はいつでもここに在るだろ

 

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テーマソングはBadMovesのTheVergeでした。

夢、頭の中にある街、そこに住む人たちについて。

 

とても楽しく作りました。上手くはありませんが、連作は新聞や雑誌に投稿するのとは違って楽しいです。

 

 

それでは。

おやすみなさい。