ネットプリント・とこしえナイト 12月分
何もしていないのに今年が終わってしまいます。
何もしていないはずなのに多忙で、危うく2回目で頓挫するところでした。
ネットプリント「とこしえナイト」を発行しました。
◇内容◇
・前月に掲載された短歌+自選 7首
・犬の短歌 5首
・夜の短歌 5首
・日記・本多劇場について
◇プリントについて◇
セブンイレブンのマルチコピーより印刷できます。
ネットプリントを選択→予約番号を入力→指示に従ってプリント
プリント予約番号:5M6C45SP
価格:20円
期限:1週間(2022/1/7まで)
とこしえナイトは月に1度発行し1年間続ける予定のネットプリントです。同じテーマで作り続けると作歌がどう変化していくかを観察する実験でもあります。
永遠に夜を終わらせないぞという気持ちでやって参ります。
それでは、よいお年を。よい人生を。
感想・新短歌教室の歌集1に寄せて
今日は2度目の更新です。僕は波があるから書ける時に文章を書いておかないと永遠に更新されないものも出てきます。というわけで歌集の感想を書きます。
◇新短歌教室の歌集1
「新短歌教室の歌集1」は歌人の岡野大嗣さんと木下龍也さんを指導者として行われた教室のまとめとして刊行された歌集です。60名の参加者の作品 計360首、そして岡野さんと木下さんの1首評 計120評が掲載されています。
ナナロク社さんは情報をnoteで更新しているのでnoteのリンクを貼っておきます。
ここに記載されているように2000部という限定的な歌集です。装丁にもこだわり、教室のまとめというアンソロジー的な要素もあるためどこか知る人ぞ知るといった雰囲気があります。しかし、短歌に初めて触れる人でもスムーズにルールが分かるような説明文があり、初めて手に取る歌集としても短歌に慣れ親しんだ人も深く読み込んでいける構成となっています。
短歌への門戸を大きく開き、新たな作り手の未来を築き上げる。実験的でありながらも革新的な作品だと感じました。1とあるので今後も続いていくのかもしれないですね。まだ見ぬ歌人の道しるべになるかもしれない教室だと思います。
僕はありがたいことに刊行後すぐに参加者の一人である阿部啓さんからいただきました。膨大な情報量の歌集のため、すぐに読み切ることが出来ず何ヶ月もかかってしまった……。感想等はナナロク社さんに送ってはいるものの誰かが何かのきっかけで僕の記事からこの歌集に辿り着いてくれたら嬉しいと思い、改めて感想として書き起こすことにしました。
◇全体について
読み終えた時、胸の中に大きな名前のないかたまりのようなものがずしんと降ってきました。短歌史の中に刻まれるであろう作品を読んだのかもしれないという実感がわいたのはそれから少し経ってからです。作品の数もさることながら、熱量の強さに一気に読み切ることができませんでした。時間をかけて一人一人の短歌を読み込み、本を閉じた時にこれは原石が詰まった箱だと思いました。銀色に光る装丁のように一人一人の五感を以て、内在された光を訴えかけてくる。共感できるもの、わからないもの、綺麗なもの、喜怒哀楽さまざまなもののまぶしさがただ嬉しかったです。岡野さん、木下さんの評を読むことにより短歌に対する解釈はより深まります。しかし、それが正解かと言われれば難しいのかもしれません。短歌は余白があるからこそ解釈が無数に生まれるものです。本当の答えは本人の中にしか分かりません。だからこそ、その余白が光のようにまぶしさを増すのです。
読んでいてとても楽しかったです。2・3と続くのであれば是非応援したい。ので、もう1冊書店で買いました。
◇特に好きだった短歌
どの歌も素敵で、その中でも特に好きだった歌について感想を書いてみました。
もしこの読みが間違っていたとしても一人の読者の感想として留めてもらえたら幸いです。敬称略です。
・阿部啓
私より長く生きてと泣く君が浮き輪となって溺れられない
→君を浮き輪に例えるのが愛だなと思いました。純粋な願いである上の句が、「溺れられない」とどこか自分の意志と反するようにして生きようとする意志が描かれた下の句に繋がっていくのが素敵です。実際にあった出来事だとは思うのですが、「君」が泣いていることによってドラマのワンシーンを切り取ったようです。日々の中にドラマはあるなと感じます。君がいなくなったら溺れてしまうかもしれないという危うさもあり、関係性の強さが際立っていました。
・磯部結衣
いつだって涼しい顔をしてるねと言う奴見ろよ、ほら、マグマだよ
→マグマは地下にあるもので、そう簡単に見られるものではありません。誰にも見えない深い場所にありながらも確かに燃えている感情があります。見ろよ、ほら、マグマだよ という挑戦的な下の句は、上の句の涼しい顔を打ち消すほどの攻撃性を感じてかっこいいなと思いました。読点の位置も相手に覗き込ませているような凄みがあります。一人の読者としてとても勇気がもらえる作品でした。
・一ノ瀬ケイ
Amazonで買えるようにもなったけど無印にはふたりで行きたい
→無印というところがすごくいいなぁと思いました。無印は広いところだと家具や生活用品、洋服も置いてあって暮らしスポットだと感じます。通販で欲しいものだけ買うこともできるけど、一緒に行って選ぶ行為に重きを置いているのが素敵でした。欲しかったけど実物を見てやめたり、意外と必要なものが見つかったり、同じ食べ物が好きであることを再確認したり。「ふたり」の関係性がどういうものであっても、そこにある生活をイメージできるのが好きです。
・うゆに
この先のすべてのカーブにきみがいるかもしれない運転をしている
→何度も読み返したくなる一首だと思いました。すべてのカーブがという部分特に好きです。きみとの関係性や会いたいなどの欲求を詠み込まずとも、「すべてのカーブ」にすることできみとの再会を強く待ち望んでいることが示されているのがすごくいいなと思いました。あるいは、再会を望んでいないからこそかもしれない運転という危険を意識した行為を詠んでいるのかもしれず、余白が多いゆえに様々な物語が想像できて素敵です。
・太田垣百合子
おやすぴおゆすみおやすきなさい毎日ちがう気持ちでねむる
→衝撃的な作品でした。日々の異なる感情をこういった形で表現できるのかと感動しました。おやすぴおゆすみおやすきなさいと、おやすみなさいという基本形を変えていくことで連綿と続く毎日が表現されているようです。この作品を読んだ時、とても良いものを見つけた日の帰り道にいるような気持ちを覚えました。きらきら光って、他の誰にも教えたくないけれど、でもやっぱりたくさんの人に知って欲しいです。
関係ないですが、ひらいて に携わった方なのでしょうか。エンドロールにお名前があって驚きました。
・カラスノ
空港の動く歩道がさよならの前の余白を早送りする
→写実詠でありながらも、後半部分で一気に寂しさが溢れ出す構成が好きです。一定速度で動いている歩道に乗ることにより感情に関係なくぐんぐん離れていく様子が頭の中に浮かびます。それを感情語を使用せずに「さよならの前の余白を早送りする」と表現することで、寂しさがまるで動く歩道に乗ってくるようにゆっくり到達するような気がしました。言葉選びが本当に巧みで、過不足がないと思います。自分が乗っているのか、相手が乗っているのかが分からないのも好きです。
・永汐れい
うまれかわるための檸檬をひとつ買う乳房がりんとふくらむ真昼
→ものすごい歌を読んでしまったというのが正直な感想です。永汐さんの作品は新聞でも拝読していますがいつも素晴らしく、音律であるとか意味を取れそうでいながらも本当のところは本人にしか分からない危うさといった、バランス感覚がとても優れているとおもいます。僕はこの歌を読み、檸檬にはキリスト教で救済の意味があることを思い出しました。檸檬という果物が内在する神秘性と乳房という人の目には触れない部分を描くことで、自分の中で感情の落としどころを探しているような気がします。そして、それまでに書かれた四首を受けてこの歌を読まなくてはならないのではないかと思いました。何度も読んで、理解したくなるような歌です。それがとても難しいとしても。
◇購入先
ナナロク社さんのnoteに書かれている全国の本屋さんから購入可能。
hontoさんにはまだ在庫があるようなのでリンクを貼っておきます。
それでは、おやすみなさい。
もう一つどうしても感想を書きたい歌集があるのでまた後日。
あとなんかいちごつみの記事が異様にアクセス数があって謎です。
最近の七不思議のひとつです。
連作・スーパースター
テレビから火花が散って'94加速度的なタイムスリップ
27クラブを超えたあとあなたは28で出会った
TheJamもTheClashもTheWhoもTheDamnedもDr.Feelgoodも!!
やまなくてマラカスの音幻聴のように鼓膜の奥で響いて
おそろいのスーツで臨むステージが遠すぎるのにあまりに近い
呼べば来る来るから呼んだ喉元に救済として魂を置く
弾かないでいっそ正しいギターソロ 掲げた先にトぶための音
カバー音源を自分のものにしてどっちも好きなSodaPressing
ほらウサギ呼応している一晩中月夜ディスコで踊れる予感
あとはもうあんたのどれいのままでいいたまに話していた頃のこと
映像の残っていないハイタイム 降りしきる刃に似たシャンデリヤ
沸点がすぐそこまでも宇宙さえ壊せるほどの瞳の中に
何度でも聴いてわかった簡単なコードの中に潜む深海
撃ち抜くってこういうことだアンプから心臓直下で届くテレキャス
笑ってるところが好きで笑ってるとこまで飛ばす最初から見る
削れてくピックのように燃え盛る灯を使い切る世界の終わり
終わるのが嫌だったから1度しか見られていない最後のライブ
またどっかで会おうぜって、きっと会うつもりだったはずの会報
伝説になってしまった伝説になったら会えない常世の摂理
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いないことが嘘みたいなTLで誰も不在を信じたくない
握手した人の話を聞いているさっき会ったみたいに話す
覚えてる初めて聞いた夜のこと以来全てが光って見える
若い人が好きでいてくれてよかったときっと俺もいつか言うんだ
生きるのはもう怖くない死ぬときにあなたに会えると知っているから
死んだあと誇れるようになりたくて俺が出来得るすべてを以て
初めて聞いた瞬間から今に至るまでずっと好きです。きっとこれからも好きです。
生きていたら55歳になるんだそうです。今の姿を見たかった。
掲載5 /感想
読売歌壇に掲載していただきました。
評もいただきました。
風の冷たさが愛しいこの世界で最も正しく僕に冷たい/犬口マズル
2021.12.14 読売歌壇 2席 俵万智選
【評】
この世界には、理不尽な冷たさがたくさんある。社会や人間の冷たさに比べれば、風の冷たさは理解しやすいものだ。「愛しい」「正しく」というストレートな表現は使うのが難しいが、うまく機能している。
嬉しいです。最近はいよいよ寒くなり風の冷たさも増してきましたが変わらずがんばります。
感想
雄二匹の家族になろうテディベアに哺乳類式愛を数えて/高田祥聖
2021.12.14 読売歌壇 3席 黒瀬珂瀾選
とても優しく、同時に胸が締め付けられるような作品だと感じました。テディベアという可愛らしいモチーフを使いながらも生々しく、そして切実です。黒瀬さんも書かれていましたが下の句が本当に素敵です。性別での区分ではなく、哺乳類式というより大きな生き物の括りを用いることにより今の世の中がいかに窮屈かが浮き彫りになる気がします。
以前も高田さんの短歌を拝読したことがあります(エヴァンゲリオンの短歌でした)
現代の実情や日常に対する鋭い切り口と幻想性の高い言葉の組み合わせが巧みな方だと思います。写実的になりすぎず、強い芯がありながらも輪郭が美しく滲む水彩画のような印象を受けました。
拝読できて嬉しく、また同じ新聞の中に掲載されたことを記念のように心に刻みました。
それでは、おやすみなさい。
永遠
写真が上手く撮れない。いつもブレているか、ぼやけているかで何を撮ったかわからない時の方が多い。特に犬を撮る時は顕著だ。犬は良く動くし静かな時は寝ている時か眠い時くらいだからいつもブレている。
だから、写真を撮ることで記憶と記録を留めておく ということができない。写真が下手なのは昔からだった。記念撮影も修学旅行も何気なく友達を撮る時も上手くいかなくていつしかカメラマン役をやらなくなった。
でも、短歌はいつも一瞬を留めておくことができる。その解像度が失われることなく僕の目を通したままに残すことができる。
だからきっと短歌をやるんだろうと思った。一瞬を永遠にしたいからやるんだろう。続けるんだろう。
余談だが、少し前に友達と「永遠が欲しい」という話をした。恋よりも永遠が欲しいと僕達は言った。永遠を見つけることは難しい。永遠を手に入れることはもっと難しい。それでも探すしかない。探すしかないのだ。